「Webマガジン幻冬舎」に掲載されたインタビュー記事

http://webmagazine.gentosha.co.jp/interview/interview.html

●初めて時代、歴史小説を書いた理由は?

 ある時、何かの拍子に、ゆったりと続く白い砂浜を夕陽に向かって走っていく数十騎の騎馬隊の後ろ姿が浮かびました。陽に輝く甲冑、はためく軍旗。そしてその騎馬隊は次第に小さくなり、光の中に溶けていきます。絵になるなあ。
「よし、歴史小説を書こう」
 そう思ったのが、二年近く前の話です。場所は? 西洋はよく知らない。時代は? 江戸、戦国は山ほど書かれている。となると……。で、こういう形になったわけです。
 が、しかし、僕は理系出身。入試で社会は「地理」を取りました。理系は「物理」「化学」と社会一科目でよかったのです。「日本史」「世界史」は、ほぼ中学生で止まっています。困ったなあと、ほぼ一年半、勉強しました。というわけで、とんでもないことが書いてあるかも知れません。その時は、ゴメンナサイ。歴史を覆そうなどと大それたことを考えているわけではありません。単なる無知からです。

●最も書きたかったこととはなんですか?

「七百年以上前も、現代も、人というものは変わっていないなあ」
『乱神』を書き始めて、つくづく思ったことです。神、つまり宗教の対立、国家の対立、人の対立。憎みあい、殺しあう。また、愛し合い、慈しみ合う。昔も今も、同じです。
 これは、「人の定め」なのでしょう。そして、苦しむのは常に、女子供、農民、町民たち、弱き者たちです。さらに、歴史を作った人たちは、歴史上に名前が残り、教科書に載っている人たちばかりではないはずです。そういう人たちのことが書ければいいなあと思い始めました。
 それに、歴史音痴の僕が色々調べていると、色んな疑問と驚きが出てきました。人は何のために戦い、何のために死んでいくのだろう。平安時代、鎌倉時代、貴族や武士は本、映画で取り上げられているけれど、一般の人はどんな意識を持って生きていたんだろう。西洋の騎士と日本の武士は、どっちが強かったんだろう。「元寇」で、武士たちは何のために戦ったんだろう。日本を支えてきたのは、どんな人たちなんだろう。人は、何のために、また誰のために戦うのか。歴史とは、単に教科書に書かれていたことだけじゃない、ということに気がつきました。高校時代、もっと勉強しておけばよかったと思うこのごろです。ちょっと長いですが、以下は僕の書きたかったことに通じるかもしれません。

 分厚い雲を通した陽が、浜をぼんやりと照らし始めた。前方の砂浜に、上陸したばかりの蒙古軍の兵士の姿が見える。その数は優に五千を超えている。そして、数は刻々と増している。しかしいま一度、蒙古兵を沖の軍船に押し戻すのだ。
 だが海岸と海に溢れる敵軍の様相を見ていると、すでにどんな攻撃をやろうとも手遅れのようにも思える。いや違う。自分たちの後ろには、農民、町人、必死で生きようとする民がついている。彼らと共に戦うのだ。赤い鎧の武者が馬に乗ってかけて行く。アランだ。そして、この浜で命を落とした部下たちだ。
 その姿に引かれるようにエドワードは疾風に跨った。
「行くぞ!」
 エドワードは騎士たちに向かって呼びかけた。
 風に雨が混じり始めた。
 吹きすさぶ風雨の中を、銀色に輝く集団が静かに動き始めた。そして、その速度は次第に速くなっていった。

「胸に赤い十字紋様の入った鎖で編まれた鎧と兜をつけ、やはり赤い十字を染め抜いた旗印を持っておられました。民は彼らのことを十字軍と呼んでおりました。同行は、盛宗様率いる五十騎のみ」

「残念ながら彼は元寇の三年後、三十四歳の若さで病死しています。正に日本を外敵から護るために生きた人生だということが出来ます。いずれにしても謎の多い時代なのです。なぜ遠くヨーロッパまで迫ったモンゴルという大帝国が、小さな島国にすぎない日本を他の大陸の国々と同様に攻め滅ぼすことが出来なかったのか。日本は特別な国だったのか」

「鎌倉時代というのは長く続いた天皇、貴族による政治を武士中心のものに変えようと、武士たちが必死に戦った時代です。そのために、多くの争いが起こり、多くの人が死んでいきました。中には人知れず死んでいき、歴史から消え去った人たちも多くいるに違いありません。こういう歴史の中で、現在、我々は生きている。この現実は決して忘れてはなりません」

 すべて『乱神』よりの抜粋です。後は、読んでください。そして、色んな感じ方をしていただければ有り難いです。

●取材をして、たくさんの資料を読み込んで書くのが高嶋さんのスタイルだと思いますが、今回はどうだったのでしょうか?

 すごく多くの人に助けてもらいました。余りに資料が多すぎて、僕一人では短時間では読みきれませんでした。要点をまとめてもらったり、疑問に答えてもらったり、友人一同の総力戦でした。本当は、博多にも取材に行くつもりで、一年も前に福岡の友人に「そのときはよろしく」とお願いしていたのですが、何かバタバタしていて、結局は地図と写真と睨めっこになってしまいました。僕の悪いくせです。今後は、きっちり計画を立ててやっていきたいと思いますが……。
 歴史の本を読んでいていちばん強く思ったのは、色んな解釈があるということです。理系の僕にとっては、面白い経験でした。「事実は一つ」的な感覚が強かったんですが、様々な説があるのに驚きました。
 小学生の頃、「日蓮」の映画を見ました。そのなかで、岩の上で必死で拝む上人の姿が印象的でした。それ以来、「蒙古の軍勢を退けたのは神風」と信じてきました。教科書にも、そう書いてあったような気もします。でもそれって、どうも嘘っぽい。今回、調べていてわかりました。少なくとも文永の役では、大きな嵐は来ていないらしい。これを書くと長くなるので、省略しますが。
 色んな資料を駆使して、その人なりの解釈をする。それが事実かどうかは、読者の判断にゆだねる。なーんだ、歴史ってこういうものなのか、と一瞬思いました。僕の解釈は間違っているかもしれないけど。しかし、こういう話って、歴史通には常識なんでしょうね。驚くに値しない。知らなかったのは、僕だけだったのかもしれません。でも、本当はどうだったんだろう。疑問はつきないですね。
 どうか『乱神』を読んでください。一つの答えにはつながるかもしれません。元寇といっても、合戦ばかりではありません。もちろん、恋もあります。
「限りなき雲居のよそに別かるとも心は人に遅れやはせむ」
 この句は僕の故郷、岡山の知り合いの大学教授が選んでくれました。歌と同様に美しい女性です。このように、『乱神』は、すごく多くの人に支えられて出来上がりました。

●初めて時代、歴史小説だということで苦労した点はなんですか?

 やはり、時代考証です。僕は初め、「現代の言葉で」「現代の感覚で」書こうと思っていました。どうせ僕には、本格的な歴史小説は書けないと思っていたのです。でも、書き始めるとやはり、それではムリがあると思いました。僕か書きたいのは、その時代に生きた人の精神ですが、未熟ながら少しでも読者に伝わるためには、やはり最小限その時代の人の言葉は必要だと思い始めました。
 で、時代小説をたくさん読んでいる友人の力をかりました。おそらく専門家から見れば、おかしなところが多々あるに違いありません。そのときは、ゴメンナサイ。また、僕らが当然と思っているものでもその時代には、不釣合いなものもたくさんありました。
「彼らは馬車に荷物を積んだ」→「当時は馬車はないみたいですよ」
「彼は風呂に案内された」→「風呂ができたのはもっと後らしいです」
 といった具合です。さらに、十字軍という言葉は何となくロマンチックですが、ごろつきの集まりも多かったとか、当時はサラセン人が科学技術の分野では秀でていたとか。僕にとっては、新しい知識でした。
 その他にも、色々ありました。さあ、どうなっているか。お楽しみに。

●最後に読者へのメッセージをお願い致します。

「歴史小説」(になっているかどうか???)実は、僕に書けるとは思いませんでした。でも、多くの人たちに助けてもらいながら、やっと出来上がりました。しんどかった。
「本」は、作家一人の力で出来上がるものではありません。
 まず、編集者の方がいて、色んな相談をしながら、メゲテいるときは励まされ、またお尻を叩かれながら原稿を書き上げます。次に、校正の方が僕の間違いだらけの原稿を、おそらく、こんなことも知らないのかと思いつつ間違いを訂正してくれます。同時に、装丁家の方が「本の顔」を作り、やっと「本」の形が出来上がります。
『乱神』の装丁はダイナミック、かつどことなく品があり(?)、歴史の深遠さを感じさせるとは思いませんか。本の装丁には、帯がかかるということも前提に考えなければなりません。難しいですね。さらに、それが店頭に並び、読者の方の目に触れるまでには、出版社の営業の方、実際に販売してくださる書店の方の手を経なければなりません。
 そのほかに、当然、印刷所、中継ぎ店の方のお世話になります。何気なく店頭に並んでいる本、このように様々な人の努力で皆さんの前に出るわけです。こうして多くの人の力で出来上がった本、一人でも多くの人が手に取ってくれるとすごく有り難いわけです。
 しかし、今回はさらに、多くの方たちに資料を調べてもらったり、武士の言葉を教えてもらったり、直してもらったり、本当に色々とお世話になりました。有り難うございました。是非、読んでください。


Interview article in "Web Magazine Gentosha

http://webmagazine.gentosha.co.jp/interview/interview.html

Why did you write your first historical novel?

 One day, something made me picture the back of dozens of cavalrymen running toward the setting sun on a stretch of white sandy beach. Armor shining in the sun, military flags fluttering. Gradually, the cavalry became smaller and smaller, melting into the light. It's a beautiful picture.
Okay, I'll write a historical novel.
 That's what I thought almost two years ago. Where? I don't know much about the West. What era? I don't know much about the West. So, I went to ....... So, this is how it came about.
 However, I am a science major. I took "geography" for social studies in the entrance exam. For science majors, I only needed "Physics", "Chemistry" and one social studies subject. I took Japanese history and world history in junior high school. I thought I was in trouble, so I studied for almost a year and a half. Therefore, I may have written some ridiculous things. If so, I apologize. It is not that I am thinking of overturning history. It's just ignorance.

What is it that you wanted to write about the most?

What did you want to write about the most?
This is what I really thought when I started writing "Ranshin". There are conflicts between gods, or religions, nations, and people. People hate and kill each other. They also love and care for each other. In the past and now, it is the same.
 I guess this is the "destiny of man. And it is always the women, children, farmers, townspeople, and the weak who suffer. Furthermore, the people who made history are not only the ones whose names remain in history and are listed in textbooks. I started thinking that it would be good if I could write about those people.
 Besides, I am not a history buff, but as I researched, I found many questions and surprises. Why do people fight and why do they die? The aristocrats and warriors of the Heian and Kamakura periods have been featured in books and movies, but what kind of consciousness did ordinary people have when they lived? Who was stronger, the knights of the West or the samurai of Japan? What were the warriors fighting for in the Genko? Who were the people who supported Japan? For what and for whom do people fight? I realized that history is not just about what is written in textbooks. I wish I had studied it more in high school. This is a bit long, but the following may be what I wanted to write.

 The sun, filtering through the thick clouds, began to dimly illuminate the beach. On the beach ahead of us, we could see the figures of the Mongolian soldiers who had just landed. Their number was well over five thousand. And the number is increasing every moment. But now, once again, we must push the Mongolian soldiers back to the warships offshore.
 But looking at the enemy troops flooding the shore and the sea, it seems that it is already too late to make any kind of attack. No, no. Behind us are the peasants, the townspeople, the people desperately trying to survive. We must fight alongside them. A warrior in red armor rides by on a horse. It's Alan. And his men who lost their lives on this beach.
 As if drawn by the sight, Edward astride the gale.
"Let's go!"
 Edward called out to the knights.
 The rain began to mix with the wind.
 In the midst of the blowing wind and rain, a silvery group began to move silently. The speed of their movement became faster and faster.

They wore chain-woven armor and helmets with red crosses on their chests, and carried banners with red crosses on them. The people called them the Crusaders. They were accompanied only by fifty cavalrymen led by Lord Morimune.

Unfortunately, he died of illness at the age of 34, three years after the invasion. Unfortunately, he died of illness at the age of 34, three years after the Genko. In any case, it is a time of many mysteries. Why was it that the great Mongol empire, which was so far away in Europe, could not attack and destroy Japan, which was only a small island nation, like other countries on the continent? Was Japan a special country?

The Kamakura period (1185-1333) was a time when warriors fought desperately to change the long-running government of emperors and aristocrats into a warrior-centered one. The Kamakura period was a time when warriors fought desperately to change the long-running government of emperors and aristocrats to one centered on samurai. There must have been many people who died without being noticed and disappeared from history. In the midst of this history, we are now living. We must never forget this reality.

 These are all excerpts from "Ranshin". Please read the rest. I would be grateful if you could read the rest of the book and feel it in various ways.

Your style of writing is to do interviews and read a lot of material. How was it this time? 

I had the help of many people. There was so much material that I couldn't read it all by myself in a short time. It was a concerted effort by all my friends to help me summarize the main points and answer my questions. In fact, I had planned to go to Hakata as well, and had asked my Fukuoka friends to take care of me a year ago, but things got so hectic that I ended up staring at a map and photos. It's a bad habit of mine. From now on, I would like to make a plan and do it properly. ......
 The thing that struck me most strongly when I was reading the history books was that there are so many different interpretations. It was an interesting experience for me as a science major. I had always had a strong sense that "there is only one fact," but I was surprised by the variety of theories.
 When I was in elementary school, I saw a movie about Nichiren. In it, I was impressed by the image of a Buddhist priest desperately worshipping on a rock. Since then, I have always believed that it was the kamikaze that defeated the Mongolian army. I think that's what it said in the textbook. But that seems to be a lie. This time, I found out through my research. It seems that at least during the Bunei era, there was no big storm. It's a long story, so I'll skip it.
 I will make use of various materials and give my own interpretation. Whether it is true or not is left to the reader's judgment. I thought for a moment that this is what history is all about. I may be wrong in my interpretation, though. But I guess this kind of story is common knowledge to history buffs. It's not surprising. Maybe I was the only one who didn't know. But I wonder what really happened. The question never ceases to amaze me.
 Please read "Ranshin". It may lead to an answer. Genko is not all about battles. Of course, there is also love.
Even though we are separated by endless clouds, our hearts may not lag behind others.
 This phrase was chosen by a university professor I know in my hometown, Okayama. She is as beautiful as her poem. In this way, "Ranshin" was completed with the support of many people.

What was the most difficult part about writing a historical novel for the first time?

 At first, I thought it would be difficult to write in modern language. At first, I was trying to write in modern language and with modern sensibilities. I didn't think I could write a full-fledged historical novel anyway. However, once I started writing, I realized that this was not possible. What I wanted to write about was the spirit of the people who lived during that time period, and I began to think that I needed at least the words of the people of that time period in order to convey that to the readers, even if it was incomplete.
 So I enlisted the help of a friend who has read many historical novels. I'm sure there are a lot of things that are strange to an expert. I apologize for that. Also, there were many things that we take for granted that were disproportionate in that era.
They loaded the luggage into a horse-drawn carriage," "They didn't have horse-drawn carriages back then.
"He was led to the baths" -> "It seems that baths were built much later.
 And so on. Furthermore, the word "crusade" is somewhat romantic, but there were also many groups of thugs, and the Saracens were superior in the field of science and technology at that time. It was new knowledge for me.
 There were other things, too. Let's see what happens now. I hope you enjoy it.

Finally, do you have a message for our readers?

I'm not sure if this is a "historical novel. Actually, I didn't think I could write one. But with the help of many people, I finally finished it. It was hard work.
A book is not the work of a single writer.
 First of all, there is the editor, who consults with me on various matters, encourages me when I'm down, and gives me a pat on the back while I write the manuscript. Then there is the proofreader, who corrects my many mistakes, probably thinking that I don't even know what they are. At the same time, the bookbinder creates the "face" of the book, and finally the book takes shape.
The binding of "Ranshin" is dynamic, yet somehow elegant. The binding of "Ranshin" is dynamic, yet somehow elegant(?), giving a sense of the profundity of history, don't you think? The binding of a book must be based on the premise that it will have a belt. It's difficult. In addition, the book must pass through the hands of the publisher's sales staff and the bookstore staff who actually sell the book before it appears in stores and is seen by readers.
 In addition, the book must be taken care of by the printing house and the relay store. The books that are casually lined up on store shelves are made possible by the efforts of many people. I would be very grateful if as many people as possible would pick up the book that was created with the help of so many people.
 This time, however, I would like to express my sincere gratitude to the many people who helped me in various ways, such as researching materials, teaching me the language of the samurai, and correcting my mistakes. Thank you very much. Please read on.