歴史、時代小説好きな人も、そうでない人も読んで絶対に損はしない。

アマゾンレビュー https://www.amazon.co.jp/dp/434401765X

長く苦しい戦いの末、十字軍の騎士エドワードは神の意志を見失い、苦悩していた。イスラム軍に追われたエドワードと部下たちは、船で逃れ日本にたどり着く。日本の地で純朴な庶民に触れるうちに、真の神の意志を悟り民のために戦うことを決意する。

After a long and hard battle, Edward, the knight of the Crusade, was suffering from the loss of God's will. Edward and his men who were chased by the Islamic army arrive in Japan. They touch naive ordinary people in Japan and decide to realize the will of God and fight for the people.

 「そなたらは死を恐れないのか」突然、時宗が聞いた。
 「私は——」
 エドワードは言葉を止めた。次の言葉が出てこない。

あらすじは↓↓↓こちらへ↓↓↓

小説を読み終わったあと、軽いしびれというか「熱気」が体に残りました。

http://hoshi-biyori.cocolog-nifty.com/star/2011/10/post-fb52.html

 「神を否定するのですか。あなたらしくない」
 「容認するのだ。神のみが我が人生を知っていると」

"Collision and fusion of different cultures" ... medieval times. Different ways of thinking different in Japan and Europe. "The meaning of the crusader" ... Change of consciousness from "the army of God" to "presence to protect the people". 

文化の摩擦という普遍的なテーマを、緊迫感をもって描き出す手法は見事。

http://denki.txt-nifty.com/mitamond/2016/01/post-8406.html

出版社: 幻冬舎
価格:文庫版上下巻・各617円
頁数:上巻289ページ、下巻294ページ

ISBN-10: 4344417194
ISBN-13: 978-4344417199

人間というものの崇高さに感銘を受けた。立場、民族を超えて、心の底で深く繋がっていく人と人との信頼、愛情、思いやり。

読書メーター https://bookmeter.com/books/4040847

プロローグ

 カビの臭いが鼻をついた。
 顔をしかめたが、さほど嫌な臭いだと思ったことはない。
 小学四年生のとき、鼻を近づけていると、「俊くんは、カビの臭いが好きなの」と女の子に聞かれたことがある。何も言わず、慌ててその場から離れた。
 嫌いではなかった。むしろ、どこか懐かしいような、気分を落ち着かせてくれる感じさえする。しかし、その感じ方が普通とは違うと知ってからは、わざと顔をしかめることにしている。
 この土蔵に入るのは二度目だった。
 一度目は二年前。父の仕事の都合で東京に住んでいたが、毎年夏休みには半月ほど父の実家に行っていた。分厚い木の扉がわずかに開いて、薄暗い内部が見えた。そっと入っていくと、薄い光の中に人影が浮かんでいた。思わず上げそうになった声をのみ込んだ。祖父が自分のほうを見つめていたのだ。慌てて、外に飛び出した。陽の光が目の奥にささるほど眩しかった。
 「土蔵の中にはお化けがいて、子供が入るとどこか遠いところに連れて行ってしまうんだ」祖父が言った言葉だが、信じたことはない。
 以後、祖父の家に来るごとに機会を狙っていたが、やっと今日、そのチャンスを得たのだ。
 天井の小さな明かりとりから差し込む光を頼りに、ゆっくりと階段を上った。うっすらと積もった埃にスニーカーの足跡が残ったが、気にしている余裕はなかった。降りるときに消せばいい。
 二階は、年代ものの大小の箱が積み上げられていた。
 「戦中戦後も、ここだけは手付かずで残すことが出来た」
 いつだったか、酒の席で祖父が父に言っていたのを聞いたことがある。
 箱の間を抜けて奥に進んだ。埃だらけの机の上に置かれた、30cm四方の朱塗りの箱が目に付いた。朱塗りといっても、色はあせ、漆の大部分が剥げて年代を感じさせる箱である。周りの箱とは、どこか違っていた。
 秘密めいていて、好奇心をそそられた。
 俊はそっと蓋を開けた。中にはさらに長方形の箱が入っている。
 その蓋をとると、黒い布に包まれたものがある。
 短剣だ。祖父は海軍の特攻隊の生き残りだと聞いたことがある。海軍の兵士が腰に吊るしている短剣。本物は見たことはないが、これだろうか。そしてその横に、子供の手のひらほどの十字架があった。
 俊は短剣を手に取った。ずっしりとした重みが伝わってくる。握りに彫られているのはライオンだ。海軍のものではなさそうだ。
 急に動悸が激しくなった。そのライオンの目が自分を見つめているような気がしたのだ。祖父の言葉がよみがえり、思わず目を閉じた。どこか遠いところ、一度行けばけっして戻れないところに連れて行かれるような気がしたのだ。
 下で扉の開く重い音がした。
 「俊、ここにいるのか」
 父親の声が響いた。
 慌てて短剣を箱にしまい、蓋を閉めた。
 
 九州、博多、姪浜海岸。
 海を隔てて正面に能古島が見える。その右の彼方に見えるのは志賀島だ。左に目を向けると、毘沙門山が視界に入った。
 陸地に目を移すと西に博多の町、東には飯盛山が霞んでいる。
 半分崩れかけた防塁の上に、十人近い若者たちが集まっていた。防塁とは元寇防塁のことで、鎌倉時代に元朝の攻撃を防ぐために博多湾に沿って造られた、石造りの防護壁である。
 中央にいるのは、北九州大学文学部考古学科の准教授、賀上 俊だった。
 色白で、鼻筋の通った彫りの深い顔は、女子学生に人気がある。「ご先祖にヨーロッパ系の人がいたんですか」と真顔で聞かれたこともあった。「ご先祖様は代々、純粋な博多っ子たい」とわざと博多弁で答えた。
 「慎重にやってくれ」
 賀上は学生たちに注意した。ここまできて、少しのミスも犯したくなかった。
 目の前にあるのは、長さ50cm、幅5cmほどの土にまみれた棒状の物体だ。
 刷毛で慎重に泥を落とした。一時間ほどの作業で、握りと剣格が十字になった、折れた西洋の剣であることが明白になった。
 剣の握りについた土を落としていくと、しだいに刻まれた凹凸が浮き出てくる。
 若者たちの間に緊張が広がった。
 賀上は横に敷かれた布の上に、その剣をそっと移した。
 「中世ヨーロッパの剣であることに間違いはないですね」
 学生の一人が言った。
 賀上はカバンから、ビロードの布で丁寧に包んだ短剣を取り出した。
 剣の横に短剣を置いた。
 周りから低い歓声にも似た声が上がった。賀上はかすかに息を吐いた。
 「同じものだ——」
 咆哮を上げるライオンの顔だ。
 「先生、やりましたね。これでこの短剣の謎が解けました。日本史を覆す発見です」
 「まだ結論が出たわけじゃない。一歩近づいただけだ」
 賀上は静かだが、緊張に満ちた声で言った。
 「剣のあと半分があるはずだ」
 立ち上がり、再び深さ一メートルほどの穴に向かった。
 
 賀上はデスクに置かれた剣を見つめていた。二つに折れた剣は、八百年近い歴史を刻みこんだものだ。
 その横の短剣に目を移した。それは二十年前、土蔵の隅で初めて見たものだった。一緒にあったのは、十字架だ。
 大学の史学科に進み、考古学を専攻した。そのころには祖父も死に、父はまだ東京にいたので、土蔵の中も自由に探索出来た。
 その短剣と十字架が13世紀、イングランドのものだと分かった。家の誰もが、その十字架と短剣については知らなかった。
 「そんなものがあるとは聞いたこともないね。うちは鎌倉時代からの武士の家系だから、刀があってもおかしくはないが。西洋のものとはな。ご先祖の誰かが偶然手に入れて、土蔵にしまって忘れてたんじゃないかね」
 父はその短剣と十字架を見ながら言った。